2013年8月14日

戦後68年終戦の日特集 館山市の戦跡20 「洲崎第一砲台」(その3)

洲崎第一砲台など砲塔砲台の建設は、旧陸軍と旧海軍の協働により実現しました。

陸軍は、まず海軍の動力式砲塔を学習することから始めたといいます。動力式の砲を装備するのは、はじめての経験でした。

旧海軍の大型砲塔は、動力を水圧で得ていました。そのため砲塔砲台には、駆動用の水圧を発生させる発動機、蓄力機(コンプレッサー)などが必要でした。


45口径30㎝加農砲塔砲台断面図
(学習研究社『日本の要塞』より転載)

軍艦の砲塔と唯一違うことが、射撃の反動を受け止める緩衝器(ショックアブソーバー)が追加されていることでした。海上では、その衝撃を海に逃がすことができますが、陸上ではできないからです。

 また、洲崎第一砲台の砲塔は、約1トンの巨弾発射時の反動と、東京湾要塞の最前線にあることから、敵艦の砲弾の命中にも耐える事ができるように、3.5mもの厚さの鉄筋コンクリートで覆われた構造でした。


洲崎第一砲台跡のコンクリート遺構
(平成14年撮影:現在は見ることができません。)

砲塔の地下部の深さは13.8mで、1mの厚さの間仕切りにより、各部屋が設けられました。


洲崎第一砲台跡の内部
(平成14年撮影:現在は内部に入ることができません。)

戦闘配置時、180発の砲弾が備蓄され、砲塔の旋回・大砲の上下の動き・発射は、水圧コックの開閉により行われました。


洲崎第一砲台跡の内部
(平成14年撮影:現在は内部に入ることができません。)

 敵の艦船をみつけるための観測所は、砲台の西方、坊の大山、西川名の前山、洲崎の御手洗山の3カ所に設けられました。

洲崎観測所跡の遺構


浄法寺朝美『日本築城史』より転載

観測所には、地下式または半地下式のコンクリート施設がつくられ、88式海岸射撃具が据えつけられました。

八八式海岸射撃具の推定イラスト
(学習研究社『日本の要塞』より転載)

これは、海軍から移管された射程の長い砲塔砲台と、速度が増した軍艦に対応するために、陸軍が開発した要塞用射撃指揮装置です。

距離を測る測遠器と、電圧・電流・抵抗を用いて代数的に式を解くアナログ式コンピューターで構成されたシステムを持ち、距離・方向・角度など、射撃に必要なデータは、電気信号で砲台に伝えられました。

 昭和6(1931)年、洲崎第一砲台の試験射撃が実施され、設計者の浄法寺朝美氏は当時の様子を、「発射の火焔・物凄い爆風・巨大な砲身の振動・大島水域への着弾と反跳の水煙など、今でも眼前に彷彿とする。」と『日本築城史』に記しています。

昭和9年、砲台が置かれた台地上にスギなどの常緑樹を植え、周辺の山林に連なるよう偽装工事がおこなわれ、洲崎第一砲台は完成しました。

 しかし当時、戦術や航空機など兵器の進歩が急速に進んでいたなかで、完成時にはすでに旧式化していました。

洲崎第一砲台の建設には、多大な手間と日数がかかりましたが、実戦には使われたことがなく、昭和20年の終戦後、米軍により破壊されました。


ダイナマイトにより破壊された洲崎第一砲台跡の内部
(平成14年撮影:現在は内部に入ることができません。)

◆ 関連記事
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡1 「館山海軍航空隊」その1 (2011.8.6)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡2 「館山海軍航空隊」その2 (2011.8.7)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡3 「館山海軍航空隊」その3 (2011.8.8)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡4 「館山海軍航空隊」その4 (2011.8.9)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡5 「館山海軍航空隊」その5 (2011.8.10)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡6 「館山海軍航空隊」その6 (2011.8.11)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡7 「館山海軍航空隊」その7 (2011.8.12)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡8 「館山海軍航空隊」その8 (2011.8.13)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡9 「太平洋戦争末期の館山-アメリカ軍の情報分析」 (2011.8.14)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡10 「昭和20年8月15日の館山」 (2011.8.15)
・ 戦後66年終戦の日特集 館山市の戦跡11 「昭和20年9月3日 米陸軍第112騎兵連隊 館山上陸」 (2011.9.3)
・ シリーズ社会科見学12 海上自衛隊館山航空基地開隊58周年記念 ヘリコプターフェスティバル in Tateyama (2011.10.11)
・ 昭和19(1944)年11月1日 米軍撮影の航空写真 (2011.11.1)
・ 太平洋戦争開戦70年 海軍落下傘部隊発祥の地-館山 (2011.12.8)
・ 戦後67年終戦の日特集 館山市の戦跡12 「幕末の海防」 (2012.8.10)
・ 戦後67年終戦の日特集 館山市の戦跡13 「布良海軍望楼」 (2012.8.11)
・ 戦後67年終戦の日特集 館山市の戦跡14 「東京湾要塞」 (2012.8.12)
・ 戦後67年終戦の日特集 館山市の戦跡15 「洲崎第二砲台」 (2012.8.13)