2012年12月4日

安房学講座 満員御礼


12月1日(土)…
第7回 安房学講座 「安房の中世仏」 が開催されました。
講師は当館の池田英真学芸員です。


熱弁をふるう池田学芸員


 
満員御礼!

 南房総にあるまじき冷え込みを見せたにも関わらず、沢山の方が足を運んで下さいました。寒い中、本当にありがとうございます。

 しかし、中には都合が合わず、やむを得ず受講を断念した方もいらっしゃることと存じます。
 そんな方のために今回の記事では、講座の一部をご紹介いたします!


1、仏像鑑賞入門
 仏像とは本来、仏陀の像を指しますが、私達の身の回りには仏陀以外にも様々な仏像が溢れています。道で見かけるお地蔵さんから鎌倉の大仏まで、大きさや形は様々です。仏像をより深く鑑賞する方法のひとつとして、種類を見分ける、というものがあります。


①如来
 仏の中の最高位です。元々は釈迦如来のみを指しましたが、大乗仏教の発展に伴い、病気を治してくれる薬師如来、未来で待ち構える弥勒如来など様々な如来が登場しています。
 仏像として表現される際にはシンプルな服装になっていることが多く、アイデンティティに欠けていると思われるかもしれませんが、如来の特徴である三十二相の一部を反映させることによってそのカリスマ性を表現しています。
 ちなみにこの「三十二相」。「足下二輪相(足の裏に文様がある)」のように表現しやすいものはいいのですが、「味中得上味相(どんなものでも美味しいと感じる)」など仏像では伝わりにくい特徴も含まれています。

②菩薩
 悟りを求める者という意味で、出家前(王子様時代)の釈迦がモデルになっています。そのため如来とは違い、像になってもアクセサリーなどの装飾品をつけていることが多く、見た目にも華やかです。
 代表的なものには観音菩薩や地蔵菩薩があり、「修行の一環として苦しむ人々を救う」という設定上、信仰の対象になることも多く、如来よりもよく見かけるかもしれません。「いきなり社長に頼むよりも、課長や専務の方が話しやすく、要求も通りやすそう」というのに似ている気がします。

③明王
 如来が憤怒形という怖い表情になって現れるのが明王です。何故怖い顔をしているかといえば、悪を退け信仰へと導くため、つまり飴と鞭の「鞭」を担当しています。代表的なものには、「お不動さん」として親しまれる不動明王、数ヶ月前に当館で行われた特別企画展「中世の安房と鎌倉」でも展示されていた愛染明王などがあります。

④天部
 仏教成立以前、古代インドで信仰されていたバラモン教やヒンドゥー教の神々が仏教に取り込まれたもので、現世利益をもたらします。天女の姿、甲冑をつけた武士のような姿、貴族姿、力士姿などキャラクター性が強く、役割としては仏教の守護神にあたります。
 代表的なものには、寺院の門に配置されていることが多い金剛力士、美人の代名詞でもある吉祥天、七福神でお馴染の大黒天などがあります。
 吉祥天や大黒天は現在でこそ親しみやすい表情をしていることが多いですが、上記の通り元々は仏教の守護神なので、中には怖い顔をしている吉祥天や大黒天も存在します。
 
⑤その他
 上記4つのグループの他に、釈迦の弟子である羅漢(らかん)や有名な高僧、聖徳太子などの歴史上の人物が信仰の対象として造形化されることがあります。また、日本古来の神と一緒になったことで(神仏習合)まるで僧侶のような神の像も造られています。



、安房の中世仏
 中世は分野によって捉え方が多少異なりますが、大まかに言えば「平安の終わりから戦国の終わりまで」を指し、今回の講座では1185年(守護・地頭が置かれる)から1573年(室町幕府滅亡)までを中世として扱いました。
 中世では運慶、快慶に代表される仏師集団慶派が主流になり、その特徴である肉感的な体躯、深い衣の皺、写実的な表現を駆使した仏像が流行しました。安房には初期の慶派作と思われる仏像はありません。しかし、素晴らしい仏像は沢山残っています。

※常時公開していないものもあります。あらかじめご了承下さい。

①阿弥陀如来坐像(鎌倉時代 那古寺)

今回の表紙にも選ばれています。
 木造、寄木造の仏像で、目は彫って表現されています。鎌倉時代以降では玉眼(裏側から水晶をはめ、和紙をあてて竹の釘で固定する目の入れ方)が主流でした。彫眼は鎌倉時代以前の特徴で、この仏像は藤原時代と鎌倉時代の特徴を併せ持つ、いわゆる過渡期のものであると考えられます。


②千手観音菩薩立像(鎌倉時代 那古寺)

「千手観音」ですが、実際についているのは42本だそうです。
   ①の「阿弥陀如来坐像」と同じく鎌倉時代の仏像ですが、こちらは金属でできています。三十二相の中には「仏は光り輝いている」という項目があり、それに倣って仏像も銅に金メッキを施したものが主流でした。その後、木造が主流になっていきましたが、鎌倉時代になると再び金属で作られ始めます。有名な鎌倉の大仏もブロンズ製です。


③十一面観音菩薩坐像(鎌倉時代 小松寺)

来る者を拒まない包容力のあるポーズ
 四臂十一面観音(腕が四本ある十一面観音)で、現在は東京国立博物館に保管されています。とても繊細で美しい造形をしており、池田学芸員も何度も足を運んだそうです。四本腕の十一面観音はとても珍しく、千葉県内では他にいすみ市の清水寺像や、一宮市の観明寺像などがあります。



3、おわりに
 仏像は信仰の対象でありながら美術品としての価値もあり、胎内から出てくる資料によって地域の歴史を物語ったりと、様々な側面を持っています。ハードルが高そうな印象があるかもしれませんが、お堂や集会場といった身近なところに何気なく存在しているのも事実です。しかも、そんな身近にある仏像が、よくよく調べるととても古いものだった!という話は珍しくありません。
 これを機会に仏像はもちろん、地域の歴史を見つめ直してみるのも素敵だと思います!
 



次回の安房学講座は・・・

1月12日(土) 13:30~
「安房の古代の祭り」
講師 笹生衛氏(國學院大學神道文化学部教授)