八犬伝には多くの宗教的場面が登場します。
伏姫がもらう数珠にある「仁義礼智忠信孝悌」は儒教。富山にこもってお経を唱える場面は仏教。最終的に八犬士が仙人になるという展開は道教の影響がうかがえます。
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その中の一部をご紹介いたします。
【役行者(えんのぎょうじゃ)】
修験道の開祖とされる人物です。
修験道とは山にこもって修行を行う山岳信仰ですが、八犬伝の中でも重要な役割を持っています。
この役行者、伊豆に飛ばされた後も夜な夜な富士山に登ったり、高下駄で一っ飛びして遠くへ出かけてみたりとアクティブな毎日を送っていました。そんな遠征のおりに出会ったのが伏姫です。
伏姫は三歳になっても口をきかなかったので、心配した母親と共に参拝をした帰りでした。この時に参拝した場所が洲崎神社の別当、養老寺にある役行者の岩窟だったとされます。
この時に役行者が伏姫に授けたのが108個からなる数珠です。その中にはあの有名な「仁義礼智忠信考悌」の文字の入った玉も含まれていました。
役行者は八犬伝の物語の前半では重要なキーパーソンとして登場します。
伏姫が八房の気を受けて妊娠していることを告げるのも役行者の役目です。ここはキリスト教の受胎告知を彷彿とさせますが、仏教では釈迦の母である麻耶夫人も脇から白い象が入ってくる夢を見て妊娠したとされており、古今東西似たような話が多いようです。
挿絵に登場する役行者(向かって左) 高下駄や頭襟(ときん)など、私たちの想像する修験者の姿をしています |
このように、かなり重要な役割の役行者ですが、登場するのは前半のみ。
そして入れ替わるように登場するのがゝ大法師(金碗大輔)です。右上から手前を覗いているのがゝ大法師 上の画像(役行者)と同じ頭襟のようなものを被っています |
【伏姫と八房】
伏姫は何を象徴しているのか、何かの化身なのか、という議題は今まで数多く上がっています。今回は伏姫を文殊菩薩、八犬士を八大童子、八房を獅子とする考察が展開されました。
伏姫は度々、八房の背に乗って登場します。これによく似ているのが、文殊菩薩。文殊菩薩は獅子に乗っている姿で描かれます。また、獅子といえば「唐獅子牡丹」という言葉が有名ですが、八犬士の痣の模様は牡丹で、これも関連があるように思えます。
そして、この文殊菩薩の眷属のひとつが八大童子。その中には女性が二人います。八犬士は全員男性ですが、女装して女田楽師として活動する毛野、幼い頃女として育てられた信乃は女装姿で描かれることもあり、八大童子と同じ設定のように思えます。
肇輯口絵では、信乃と毛野は女装姿で描かれている |
馬琴は「文外の画、画中の文」という言葉を残しています。これは、「絵は文の補足ではなく、絵と文は互いに補いあっている」という意味です。つまり「挿絵もちゃんと見てね」という馬琴からのメッセージなのですが、本物の読本を手に取る機会は少ないと思います。
なので、今回は特別に本物の読本を用意し、生で見ながらの講座と相成りました。ピックアップ八犬伝は知識を深めるだけではなく、普段は見ることのできない資料や違った視点を発見できる機会です。まだ参加したことがないという方は、是非来年お申込みください!
次回のピックアップ八犬伝は
9月22日(土)「八犬伝版元と江戸出版事情」