日本の近代化を進めた明治政府。
誕生間もない国家防衛の課題は、外国艦船の侵入から、首都東京を守ることでした。
日清・日露戦争を前に、敵艦船の本土侵入が想定され、防衛戦略は各地の沿岸へと拡大し、次々と要塞が建設されます。
第一次世界大戦後、軍備縮小の気運が高まり、大正11(1921)年、ワシントン海軍軍縮条約が締結されました。
当時、軍事力の中核は海軍力で、列強は競って「大艦巨砲」を生産していましたが、イギリス・アメリカ・日本・フランス・イタリアという五大海軍国の主力艦の保有トン数が制限され、その比率が決められたのです。
旧日本海軍は、旧式艦を廃棄し、未完成艦の建造を中止しましたが、その結果、それらの艦の砲が余ることになりました。その一方で、旧陸軍は新型の砲を開発していました。
この無駄に気づき、海軍の余剰の砲を要塞に備えればよいと考えたのが、陸軍の重砲開発のチーフであったと言われています。
日露戦争中に建造された戦艦「安芸」 |
城ケ島砲台(神奈川県三崎市)に設置された戦艦「安芸」の副砲塔 全体に陸軍の標準迷彩が施されています。 |
軍艦の砲を、陸上の砲台とするためには、最小限の改造で済ませることが目的とされました。費用がかかりすぎては元も子もありません。そのため、旋回部を含め軍艦の砲塔が、丸ごと砲台に設置されました。
45口径30㎝加農砲塔砲台断面図 (学習研究社『日本の要塞』より転載) |
陸軍風に「砲塔砲台」と名付けられたこうした砲台は、大正14年から昭和7(1932)年までの間に、朝鮮半島を含む各地に備えられました。
その配置状況をみると、東京湾と対馬海峡が重要視されていたことがわかります。対馬海峡に6、東京湾に4、津軽海峡に1、豊後水道に1の計12カ所に置かれました。
日本の砲塔砲台 (学習研究社『日本の要塞』より転載) |
砲塔砲台一覧
砲台/砲種/制定年月/旧砲塔搭載艦
①千代ケ崎砲台(神奈川県横須賀市)/45口径30㎝カノン砲/昭和3年10月/戦艦鹿島
②大島砲台(長崎県平戸市)/45口径30㎝カノン砲/昭和7年3月/戦艦鹿島
③大間崎砲台(青森県大間町)/45口径30㎝カノン砲/昭和7年11月/巡洋戦艦伊吹
④鶴見崎砲台(大分県佐伯市)/45口径30㎝カノン砲/不明/巡洋戦艦伊吹
⑤洲崎第一砲台(館山市)/45口径30㎝カノン砲/不明(昭和7年)/巡洋艦生駒
⑥城ケ島砲台(神奈川県三崎市)/45口径25㎝カノン砲/昭和6年8月/戦艦安芸
⑦大房岬砲台(南房総市)/45口径25㎝カノン砲/昭和7年3月/巡洋戦艦鞍馬
⑧竜ノ崎第一砲台(長崎県対馬市)/50口径30㎝カノン砲/昭和8年9月/戦艦摂津
⑨竜ノ崎第二砲台(長崎県対馬市)/50口径30㎝カノン砲/不明/戦艦摂津
⑩張子嶝砲台(韓国釜山広域市)/45口径40㎝カノン砲/昭和9年8月/戦艦土佐
⑪黒崎砲台(長崎県壱岐市)/45口径40㎝カノン砲/不明/巡洋戦艦赤城
⑫豊砲台(長崎県対馬市)/45口径40㎝カノン砲/不明/戦艦土佐
東京湾には、千代ケ崎砲台(神奈川県横須賀市)、城ヶ島砲台(同三浦市)、大房岬砲台(南房総市富浦町)、そして洲崎第一砲台(館山市加賀名)と、湾の入口をふさぐように、砲塔砲台が設置されました。
東京湾に配置された砲塔砲台 (学習研究社『日本の要塞』より転載) |
(その2につづく)
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