陸軍は、まず海軍の動力式砲塔を学習することから始めたといいます。動力式の砲を装備するのは、はじめての経験でした。
旧海軍の大型砲塔は、動力を水圧で得ていました。そのため砲塔砲台には、駆動用の水圧を発生させる発動機、蓄力機(コンプレッサー)などが必要でした。
45口径30㎝加農砲塔砲台断面図 (学習研究社『日本の要塞』より転載) |
軍艦の砲塔と唯一違うことが、射撃の反動を受け止める緩衝器(ショックアブソーバー)が追加されていることでした。海上では、その衝撃を海に逃がすことができますが、陸上ではできないからです。
また、洲崎第一砲台の砲塔は、約1トンの巨弾発射時の反動と、東京湾要塞の最前線にあることから、敵艦の砲弾の命中にも耐える事ができるように、3.5mもの厚さの鉄筋コンクリートで覆われた構造でした。
洲崎第一砲台跡のコンクリート遺構 (平成14年撮影:現在は見ることができません。) |
砲塔の地下部の深さは13.8mで、1mの厚さの間仕切りにより、各部屋が設けられました。
洲崎第一砲台跡の内部 (平成14年撮影:現在は内部に入ることができません。) |
戦闘配置時、180発の砲弾が備蓄され、砲塔の旋回・大砲の上下の動き・発射は、水圧コックの開閉により行われました。
洲崎第一砲台跡の内部 (平成14年撮影:現在は内部に入ることができません。) |
敵の艦船をみつけるための観測所は、砲台の西方、坊の大山、西川名の前山、洲崎の御手洗山の3カ所に設けられました。
洲崎観測所跡の遺構 |
浄法寺朝美『日本築城史』より転載 |
観測所には、地下式または半地下式のコンクリート施設がつくられ、88式海岸射撃具が据えつけられました。
八八式海岸射撃具の推定イラスト (学習研究社『日本の要塞』より転載) |
これは、海軍から移管された射程の長い砲塔砲台と、速度が増した軍艦に対応するために、陸軍が開発した要塞用射撃指揮装置です。
距離を測る測遠器と、電圧・電流・抵抗を用いて代数的に式を解くアナログ式コンピューターで構成されたシステムを持ち、距離・方向・角度など、射撃に必要なデータは、電気信号で砲台に伝えられました。
昭和6(1931)年、洲崎第一砲台の試験射撃が実施され、設計者の浄法寺朝美氏は当時の様子を、「発射の火焔・物凄い爆風・巨大な砲身の振動・大島水域への着弾と反跳の水煙など、今でも眼前に彷彿とする。」と『日本築城史』に記しています。
昭和9年、砲台が置かれた台地上にスギなどの常緑樹を植え、周辺の山林に連なるよう偽装工事がおこなわれ、洲崎第一砲台は完成しました。
しかし当時、戦術や航空機など兵器の進歩が急速に進んでいたなかで、完成時にはすでに旧式化していました。
洲崎第一砲台の建設には、多大な手間と日数がかかりましたが、実戦には使われたことがなく、昭和20年の終戦後、米軍により破壊されました。
ダイナマイトにより破壊された洲崎第一砲台跡の内部 (平成14年撮影:現在は内部に入ることができません。) |
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