この講習会は1年に1回開催され、文化財の保護と適切な管理のために必要な文化財に関する基礎知識、保存技術や管理の実務について研修し、文化財保護・管理行政の強化を目的として実施されています。
今回は3月11日の未曾有の「東日本大震災」の経験から、「文化財の保護と東日本大震災」をテーマに講演、報告が行われました。
市町村の文化財保護・管理行政の担当者のほか、広く一般の県民の皆さまも集い、約100名の参加となりました。
講習会は文化庁文化財部記念物課主任文化財調査官の本中 眞氏による講演「文化財の保護と東日本大震災-特別名勝「松島」の被災と復興計画を例に-」から始まりました。
みなさんもご存知の特別名勝「松島」ですが、名勝の指定範囲は富士山と並ぶ大規模なもので1万3600ヘクタールもあるそうです。ただ、富士山と大きく異なるのはそこが私たち人間の生活、生業の場であるということ!!
自然災害後に最重要な事柄は言うまでもなく「生命と安全な生活の確保」、そして地域の復旧・復興です。
講演では、3月の東日本大震災後の「松島」を中心とした文化財の被災状況について示され、地域の復興計画の中で被災文化財をどのように守っていくのか、文化や文化遺産の継承・再生がいかに地域の生きる活力、エネルギーとなり、地域の復興に繋がっていくか、そしてその際に文化財行政に携わる者の果たすべき役割について話されました。
講演の後は、3件の報告が行われました。
【報告1】
香取市教育委員会生涯学習課文化財班主査の川口 康氏より「東日本大震災における香取市の文化財の被災状況と復興への取り組み」について報告がされました。
東日本大震災による香取市内の文化財被災状況と、その中でも特に被害の集中した香取市佐原地区内の千葉県指定文化財建造物の修理・復旧に向けた取り組みが紹介されました。
被災した建造物の写真が紹介され、その後の調査実施や所有者が実施する修理事業に対して、県及び市補助金による公的支援が決定されたこととその経過などが説明されました。
また、今後の課題として、予測できない今回のような災害に備えて、記録保存の必要性、復旧時に必要となる資料の作成(図面、古写真など)、所有者向けの災害時対応策マニュアルの作成等をあげられました。
【報告2】
国立歴史民俗博物館機関研究員である葉山 茂氏より「宮城県気仙沼市小々汐集落・尾形家住宅における被災文化財救出活動」についての報告がされました。
文化財として指定されていない生活用具や文書などの救出を目的とした活動を紹介し、災害によって失われようとする生活を残すことについて述べられました。事例は「尾形家住宅」です。国立歴史民俗博物館(歴博)と尾形家の関わりは2008年12月から実施された調査に遡ります。しかし、詳細な調査が終わる前に、震災の津波により、「尾形家住宅」は流失してしまいます。
震災後、「尾形家住宅」のある集落全体が津波で流失。 住宅は津波によって100m移動し、屋根から下が失われていた。 |
実際に行われた壊れた民家からの民具等の救出の様子、その後のクリーニング、リスト化・管理・保管の流れが映像で紹介され、文化財救出で直面した問題なども聞くことができました。
【報告4】
千葉県立中央博物館の斉藤 明子氏より「被災標本を救え-陸前高田市立博物館の被災標本救済プロジェクト-」について報告がありました。
東日本大震災において壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市立博物館の収蔵標本を救済するプロジェクトが岩手県立博物館を中心に全国の博物館の協力で進んでいることが紹介されました。震災により、収蔵されていた昆虫、植物、貝類といった標本の全てが砂泥混じりの海水をかぶり、1ヶ月半の間放置されていたことにより、カビの発生などの腐敗が進んでいたそうです。
最終的に全国13府県19の機関が救済に加わり、関係機関が情報交換を行い、試行錯誤しながら行われた、だれも経験したことのないこの作業の過程が語られました。
今回の講習会は、具体的な事例から震災と文化財の保護について考える大切な機会となりました。
☆最後にご紹介です☆
今回、講習会が開催された千葉県立美術館では下記の企画展が開催予定です。冬の大人の社会科見学(芸術鑑賞)にいかがですか!?